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プロレースの世界(その3)
イタリア人はチャット好きが多く、スカイプやFacebookを通して僕のところには毎日来る。
同業者から、「今、ランス復帰の可能性の記事がガゼッタのサイトに出た」というのも、チャットで連絡が来た。

僕ととても仲のいい代理人(代理人についてはチクリッシモ最新号を見てください!)もチャット好きで、もうしょっちゅう来る。
普段から、かけ放題契約の携帯電話を利用し、ずっと選手や監督としゃべりっぱなしなのだけど、そのノリでチャットが来るのだ。
ちょうどそのときも来たので、ランスの復帰について聞くと
「チポッリーニの復帰計画と同じで、ばかげたことだよ」と一笑に付した。

次の日に、ガゼッタ本紙の方で、わざわざピエール・ベルゴンズィが出て来てこれについて書いた。
元々はいっしょにレースを転戦していた。
90年の前橋のトラック世界選でサングラスを無くしたときに相談を受け、落とし物コーナーから引き取って来てあげると、
「砂田、そして日本人の道徳に驚いた」と原稿に書いた奴である(実際、発売された新聞ではそこが削除されていたけど)。
今は出世し、かなり偉くなっているけど、ドーピングなどのデリケートな問題のときには、必ず社を代表する立場で書く。
そして、ランスのトライアスロン参加について大きく取り上げ、自転車への復帰は否定した。

写真の撮影者の名前をすぐに間違える。いつも大げさにあおり立てる…など、うんざりすることもあるけど、僕は彼らの仕事にはいつも一目置いている。
彼らもいまやインターネットで情報を集めているけど、記事にする前に必ず電話をかけて裏を取る。その電話代がいったいいくらかかっているのか、こっちが心配なほどだ。

自転車界で運転手付きのクルマに乗ってくるのはガゼッタとレキップだけ。距離にもよるけど、飛行機はビジネスだし、ホテルも4つ星以上。だけど、その仕事ぶりはやっぱりいつも感心させられる。
僕が今でも新聞をまず読み、いわゆるインターネットサイトの記事をあまり見ないのは、幸か不幸か、彼らの仕事ぶりを見てしまっているからだ。

今回のパリ〜ルーベからの飛行機は、ガゼッタの記者と同じだった。
彼の荷物は、ビジネスクラスのタグが着くから早くターンテーブルに出て来る。
だけど、空港についてすぐに携帯電話が鳴りだした。仕事の話である。
で、僕が荷物を引き取ってクルマの方に向かうと、一足先にタクシーに向かった彼が駆け足で戻って来た。
自分の荷物を受け取ることを忘れていたのである!

話はちょっと飛ぶけど、通信社の仕事もこれまた厳しい。グランツールや世界選など、大きなレースで日本選手の写真が日本の新聞やそのサイトに最近良く載っているけど、その多くは僕が撮ったものだ。
ところが、よくあるのは
「初日のレースでゴールした瞬間に電話してほしい」というやつだ。
たとえば、「今、新城がプロローグを走り、そしてゴールしました」と、東京に電話するのだ。
「新城が初日のタイムトライアルを走り、完走した」という記事を書くための証拠とするのである。

今回、ガゼッタはランスのことをあおった。
だけど、金を動かすためにそれを考えた人は、自転車界に少なからずいると思う。
なにしろ、大スターがいないのだ、今の自転車界には。
ボーネンもカンチェッラーラもジルベールも、みんなワンデーレースの選手だ。
やっぱりグランツールの総合も取れる選手じゃないとダメなのだ。
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