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大ショックのツール
最初にスキー場のパトロールとして働いた大学1年生のとき、いきなり大雪だった。いわゆるゴーロク豪雪(昭和56年)である。
除雪のためにスノーダンプを引いて滑っていた僕は、深雪に足を取られて前につんのめり、ストックのグリップで目を突いてしまった。
先輩が「失明するかもしれないぞ」と言った途端にショック症状も起こして病院に運ばれた。
ときは大晦日。搬送先は救急の当番医だった。
ところがなにか様子がおかしい。ぶつぶつ言いっぱなしなのだ。どうやら女房に逃げられて、ノイローゼになっているらしい。
しまいには「こんな忙しいときに運ばれてきやがって」と言うのだ。
温厚で誠実、さらに我慢強いあたしもさすがにぶちきれて、治療が終わってから怒鳴り散らして帰ってきた。
しかし、保険証を持ってきていなかったので自宅にいったん戻り、「おお、持ってきてやったぞ」とたたきつけて出した。
ところがなんと、たまたま期限の切れた古いものが新しい保険証の横にあって、それを持ってきてしまったのである。
もう恥ずかしさで、言葉がなかった。

ちょっと前、ドーピング撲滅機関のパウンドという輩が、
「自転車競技のイメージは、トイレに捨てるようなもの」と吐き捨てた。
これには温厚で誠実、さらに我慢強いあたしもかなり頭に来た。
「トイレの水で顔を洗え」と言いたかった。
しかし今回の事件で、あの目医者での恥ずかしさが蘇ってきた。
時差ボケひどい
ミラノからの飛行機の中で7時間も寝たのに今回は時差ボケがひどく、夕べも11時に寝て1時半に目が覚めてしまい、そのまま朝まで仕事していた。
今も眠い。

今は、8月下旬に出されるチクリッシモ第2号の原稿書き、ブエルタのオートバイの運転手の手配、それから12月にカタールで開かれるアジア大会の取材申請(これが超大変)やらで大忙し。
しばらくは時差ボケとの戦いが続きそうだ。
帰国
今年はファミリーレストランみたいなところばかりで食事していたから、一度だって本物のフランス料理を味わうことができなかった。
これを除けばトラブルもなく、無事終わった。これがいちばん大事。
しばらくは忙しい日が続くが、1ヶ月は日本にいられる。

次はブエルタで、終わり次第すぐに一回ミラノに戻って、クルマでザルツブルグに入って世界選。そのあとはチューリヒ、パリ〜ツール、ロンバルディーアで終わり。
早くシーズンオフが来ないか、待ち遠しい。
ツールも終盤
もう「怒濤のアルプス」で、写真をたくさん撮るから、その整理だけで大変。ここ数日はまともに睡眠もとれないし、夜中も時々起きて、写真を送っていた。
スター不在だった今年のツールだけど、ラスムッセンの独走、そしてランディスの地獄と天国の往復の走りで、近年最高にスリリングな展開となっている。
だから、忙しいけど、仕事は楽しい。

ツールが終わったら1ヶ月間日本に戻り、そのあとブエルタに行く。今年は渦中のバッソやヴィノクロフ、ペタッキなどがブエルタに参加すると言われていて(バッソは連盟の決定を待っている)、こっちも面白くなりそうだ。
今日はラルプ・デュエズ
今日はラルプ・デュエズ
ギャップで2連泊しているのだけど、ホテルにエアコンがないため、窓を開けていた。
そうしたら、何か所も蚊に刺されてしまった。
シモーニは刺されなかったが、ルームメイトのリッコは腕を刺されて腫れ上がっている。
そのシモーニ、ツール前からラルプ・デュエズで勝ちたいというコメントが新聞に書かれていた。
そのことを確かめると、すっとぼけている。
選手がマスコミ相手に言う言葉なんて、いい加減ですね(笑)。
しかも、休養日なのにご飯をいっぱい食べて「ああ、食った、食った」と突き出た腹をなぜながら出てきた。
「休養日にそんなに食べて大丈夫かい?」聞くと、
「ああ、食べなきゃ」と涼しい顔。
今日、ラルプ・デュエズは誰が勝つか楽しみである。
今日は休養日
だけど、コインランドリーで洗濯したり、写真を撮ったりと、忙しさは変わらない。
サウニエルドゥバルとブイグテレコムが泊まっているホテルにいるのだけど、エアコンがついてないのが辛い。交通量の激しいところで、窓を開けると深夜でも騒音が入ってくる。
運転手のいびきとどちらが辛いかといえば、いびきなんだけどね。

今回持ってきて良かったのは、パソコンにつけるビデオチャット用のカメラだ。これで家族と話をしている。
日本はまだ梅雨で、雨が降っていると言っていた。
こっちは連日猛暑。昨日の山なんか、オートバイの集団の追い越しを認めないという無線放送が入り、もう超スローペースで集団の後ろを長時間待たされたのは辛かった。
かといって、カフェがあるような街もなく、炎天下の修業だった。

だけど、ツールのレース中にカフェに入ったのはまだ2回しかない。
これはフランスのコーヒーがまずいからだ。
ジロだと1日少なくとも1回、多いときには2回入るのだけど。
やっぱりイタリアのエスプレッソは世界一です。
隣の国なのに、よくもこれほどコーヒーの味が違うものだと、いつも感心している。
暑かった
暑かった
昨日のステージで大きくタイムをロスした選手が続出。
ポポヴィッチもその一人だった。レース中に彼を見たとき、「ああ、ダメだな」と思った。
だけど今日は気持ちを切り替えて区間優勝だ。区間優勝自体が難しいし、この切り替えの早さはさすが。彼の精神力の強さによるものだろう。

今日は猛暑だった。
さすがに半ズボンでオートバイに乗った。
だけど、後半に断続的に現れたヒマワリ畑に入ると、脚が葉っぱで擦れて痛くて…。
空気はからからで、そんなにのども渇かない。
しかし選手と同じで、水分を摂らないと頭がぼーっとしくるから注意だ。
ポーで友人宅訪問
今日は最初の山岳ステージが終了し、今はポーの真ん中のホテルに泊まっている。
夜は友人宅に招待していただき、ご馳走してもらった。
エールフランスのスチュワーデスをされていた日本人女性で、昨年に定年退職された。パリの男性と結婚されていて、現在ポーで悠々自適の生活をされているのだ。
まさか、ポーでカレーライスが食べられるとは思ってもいなかった。
それにこれまで知らなかったけど、ポーは甲府と姉妹都市を結んでいて、いろいろお世話されているそうだ。
本当に楽しい時間を過ごすことができた。

実は数日前も、やはりエールフランスのスチュワーデスをされていた日本人女性で、今は退職されてパリ〜ルーベのスタートであるコンピエーニュに住んでいる知人に招待頂き、おいしい夕食をご馳走になってきた。
旦那さんはワイン通で、本も出されていて、シャンパーニュを振る舞っていただいて感激した。

ヨーロッパに長く住んでいる日本人はいっぱいいるけど、自分ほどいろんなところに行っている人を僕は知らない。
けれども、いつもホテルとレース会場の往復だけで、何も見ていないし、何も知らない。はっきり言って、自転車バカだ。
だから、こうして現地に住んでいる知人と楽しい時間が過ごせるのは、もうめちゃくちゃ幸せな気分になれる。
バッソやウルリヒは今
どうしているんだろう?
バッソは山に行っていたらしいが、数日前にまた家に戻ってきた。
山でも数時間のトレーニングをしていたという。

ウルリヒとセビーリャはチームから停職処分状態だ。
だけど、監督のペヴナージュは、電話の会話が完全にあやしいということでチームから解雇された。

とにかく公式の報告というのはなにもない。
新聞に出ていたけど、バッソのチームメイトのロンバルディが
「バッソの犬の名前がリストに出ていたからって証拠になるの?まったく恥ずかしくなるような話だ」とコメントしている。
イタリアのカメラマンから聞いたところによると、ミルラムの監督のスタンガの犬もやはり同じ名前だという!
やっぱり、犬の名前じゃ証拠にならんなあ。

まあ、どういう結末を迎えるのかわからんが、バッソは新聞に
「来年は絶対戻ってくる。今以上のモチベーションを持ってね」と言っている。
ボルドー到着
ロリアンから500kmの移動で、バイクの運転手は当然バイクで、僕は電車で移動した。
予約がたくさん入っているというので一等車にしたが、やっぱりTGVじゃないからコンセントがなかった。
マックはバッテリーの持ちが悪いのですぐに仕事できなくなり、かなり寝てしまった。

ボルドーはやっぱり南にある分だけ暑く、そしてからっとしている。昨日までの湿っぽい天気がウソのようだ。
4月にもトラックの世界選手権で1週間滞在していたこのボルドー、ワインが好きな人にとっては聖地であろう。
だけど、僕も運転手もビール党なので、たぶん今夜もビールを飲むと思う。
ワイン通から見ればきっと「バカじゃねえの」と思われるかもしれないが、毎日顔見ている運転手といっしょにワイン…って感じじゃないんです。
今夜は静か
レースが終わって、プレスルームにカキがあると聞いて行ってみたらもうすっかりなかった。
レースで仕事しているものが食べられないというのはいつも同じだ。

夕食は駅前のブラッセリーにでも行こうと思っていたが、フランス対イタリアの決勝戦を観にきた地元の連中がすでに騒ぎ出していたので、そこに入ってイタリア人のバイクの運転手がイタリアゴールで声でも上げようものなら殺されかねないので、そのへんのボロいところに入った。
それで部屋で仕事しながら観戦。

しかし、あのジダンの頭突き退場はなんなの。
温厚な運転手も憤慨し、そして大チャンピオンの愚行にがっかりしていた。

で、イタリアの勝利となって、しーんとしていた町中にクルマが走り出した。
でもクラクションは皆無で、完全に意気消沈している。
今夜はゆっくり眠れそうだ。
洗濯
洗濯
昨日は今大会で初めて雨が降った。にわか雨だったけど、けっこう雨足は強かった。
で、今朝「すかっと晴れているかな」という期待とは正反対で、やっぱり今にも雨が降り出しそうな感じ。雨雲が垂れ込めている。

昨日は初めて洗濯しなかった。今日から2泊連泊なので、必ずコインランドリーで洗ってやると意気込んでいる。手洗いばかりだと、やっぱり汚れがとれないのだ。

僕がこの仕事を始めた頃、選手たちは各々手洗いしていた。ホテルに行くと、必ずジャージが干してあったものだ。
だけど最近はトラックに洗濯機がついていてスタッフが洗ってくれる。
このへんのことは、未知谷から出ている「ヨーロッパを変えた男、グレッグ・レモン」に出てくる。読んでクソにもならないような本が溢れている中、あれはお世辞抜きの良書で、みなさんにぜひ読んでもらいたい本です。自転車レースが濃厚に詰まっています。

それから発売中のチクリッシモ。実はまだ僕も見ていないのですが、アメリカ人のアプトの書いたこの本を見習ってもっともっとよくしていきたいと思っています。
ホテルで苦労中
今泊まっているのはマーストリヒトのホテル。何年か前に泊まったときは良いホテルだった記憶があるのだけど、今回泊まったらもう最低。
冷房がなくて扇風機が置いてあるだけで、それもすごくうるさい。第一、インターネットはネットサーフィン(もう死語ですね)だけで、メールを送ることができない。
昨日は昨日で予約しておいたつもりのツインの部屋がとれてなく、ダブルベッドがひとつだけ。運転手に寝てもらって、僕は床にタオルやらシーツを敷いて即席ベッドを作って寝た。40歳を過ぎてなんでこんな学生みたいなことをやっているのか、ああ、まったく!

毎日ガゼッタを読んでいるが、ツールの扱いは小さく、反面バッソの記事が連日大きく出ている。
昨日どんな点が怪しいか、スペインからの報告書にある5つのポイントが列挙されていたが、これを読むとはっきり言って反論するのが難しい。
バッソは弁護士に任せており、今日から気分転換に家を離れるらしい。

94年にブーニョからカフェインが検出されてイタリアでの世界選に出場できず、大騒ぎになったことがあった。彼は優勝候補だった。
僕が「いったいどうなるんだろう」と言ったら、ベテランジャーナリストが
「どうなるかって?2年間の出場停止だよ。それだけさ」と冷たく言ったことが忘れられない。
規則はみんなの前で平等というわけだ。
だけど状況があまりに不自然で(イタリアチームが選抜選手を対象に行った検査で、事前に実施日が知らされていたにも関わらず陽性反応が出た。こんな自殺行為はいくらなんでもあり得ないだろう)、反論できる証拠がなかったけれども、特例的に軽い処分で済んだ。

今回のバッソもそんな奇跡的な展開が期待されるけど、あの新聞に載っていた証拠を読むと、おもわず腕組みしてしまった。
フースホフトの怪我にびっくり
フースホフトの怪我にびっくり
しかしあのフースホフトのゴールスプリントでのアクシデントには驚いた。紙に当っただけであんなに出血するのだ。1枚だと弱いけど、何枚もあるとものすごく強くなるのが紙で、昔の軍隊経験者に聞いたら、電話帳だったら鉄砲玉も貫通できないかもしれないと言っていたのを思い出す。

僕はスキーパトロールの資格を持っていて、若い頃は近くのスキー場に通っていた。そしてリフトの切符を切るおじいさんたちの話をたっぷりと聞かされた。
たこ部屋のようなところで働いた話、ダムの建設現場、戦場、めちゃくちゃな軍隊のやり方...。
この紙の話もそこで教えてもらった。
少し調子出てきた
今日は猛暑。しかも、夕食にこちらの名物シュークルートを食べたから、のどが渇いてたまりません。

1ヶ月間もカメラから離れていたから、なんか調子が出なかったけど、この暑さがジロを思い出させてくれて、ようやく調子が出てきた。

朝から夜までずっと仕事で、昨日は夜1時まで写真を整理し、今朝は7時に起床。まあ、毎日ずっとこんな感じだ。
これからプロローグ
僕は昨日金曜日に現地に来たけど、AP通信の連中は、火曜日からこっちに来て取材していた。
今回の一連の騒動の写真の多くは通信社のもので、昨日現地に入ってきた多くの個人カメラマンの出番はほとんどない。
通信社というのは物量作戦だから、こういう部分に関してはものすごく強い。

昨夜の国際自転車競技ジャーナリスト協会のパーティだけど、アペリティフが夜8時くらいから始まり、食事が始まったのは9時。メインディッシュが終わったのは11時。ヨーロッパのパーティーの典型的なタイムスケジュールだ。デザートまで待っていたら12時を過ぎるので、メインが終わったところでホテルに戻った。

ツールのボスであるルブランやプリュドムも招待されていたが、今回の事件を忘れるかのように余興を楽しんでいた。
自分みたいな小心者だったら食欲もなくなるだろが、さすが大物は違う。
彼らは徹底的にツールをクリーンにするという姿勢だから、ある意味達成感があるのかもしれない。

だけど、今回のウルリヒとバッソの言い分というのは聞いていない。バッソは「胸を張って歩く」と新聞に彼のコメントが載っていたが、両者の潔白が証明されることを祈っている。ファンも同じ気持ちだろう。