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イタリア
帰国後、僕はほとんど外出もせず、家ですごした。
コロナウイルスをもし持っていたら人にうつしてしまうからだ。
ほぼ2週間たった今も変わりなく過ごしていて、もちろん家族も元気だ。

一方、イタリアの惨事は目を覆いたくなってしまうほどだ。
家族ぐるみの付き合いがあるコルナーゴと昨日連絡を取ったのだけど、一昨日だけで960人が死亡し、そのうちの540人が会社のあるロンバルディーア州とのこと。
外出禁止令が出されて久しいが、さらに3週間延長される見込みという。

自転車レースはもちろんのこと、各メーカーの製造にも大きな影響があるのはもう間違いないし、すでに自転車という枠を超えてスポーツ、そして国、世界への影響は計り知れないレベルである。
自分も家族も元気というのは、非常に幸せなことである。
非常事態
自転車レースが凍結されてしまった。
これはもう前例のないことだ。
とくにツール・デ・フランドルなどは世界大戦中も実施されたレースだ。
世界の経済が著しく停滞するけど、自転車の世界も同様だ。
レースを走らない選手やチームにスポンサーは金を支払い続けなければならない。
赤字垂れ流しである。
とりわけ今の季節はベルギーのクラシックだ。ベルギーチームにとってクラシックレースはツール・ド・フランス、あるいはそれ以上に価値あるものなのだ。
前例がない非常事態で僕もこれからレースのない生活を送るが、3月、4月に日本にいるのはこの仕事を初めて32年目にして初めての経験である。
基本の基
僕が毎日欠かさず見ているWEBサイトやユーチューブがあるんだけど、それはまったく自転車とは関係のないものだ。
ただ、その道を極めたような人が運営していて、実に勉強になる。
一見、ただの親父に見えるけど、その人の中にはれっきとした歴史観があって、今の状況を歴史の中で位置付けられるところがすごい。

これを自転車に当てはめてみると、どうだろうか?
よくもまあこの程度の知識と経験でモノを書けるなあと、ある意味感心させられるというか、世の中をハッタリで渡っていけるもんだと思う。

まずは基本となるのは、例えば100年の歴史でコッピやメルクスがどの時代で、どんな機材を使い、どんな走りをして、どんな勝利を納めたかくらいは頭に入っていないとダメだ。
それすらも知らないのがいることに心底驚いてしまう。
そういうのに限って、レース現場に来ると選手やジャーナリストと話もできない
自転車の基本の基とはなにか、自転車学校がもしあれば、1年生の勉強範囲である。
今日出国
一昨日、自宅に到着した。
その時点で、イタリアの次のレースであるストラーデ・ビアンケ、ティレーノ〜アドリアティコ、ミラノ~サンレモにはいかないことを海外のクライアントに連絡した。ご存知、新型肺炎のせいである。
そうしたらネガティブな反応もあり、行かざるを得ない雰囲気となった。
その結果、わずか1日で方向転換を強いられ、ヨーロッパに向かうことになった。
今、富山から羽田への飛行機の中でこれを書いており、このあと成田に行ってローマに飛ぶ。
ところが今、イタリアは大変な状況になっており、つい数時間前に事実上、自転車レースは4月3日まで中止という感じだ。最終決定は今日、出される。しかも、ロンバルディーア地方はコロナウイルスの被害が甚大で、とても足を踏み入れることができない。コルナーゴから何度も連絡をもらい、ロンバルディーアどころかイタリアに足を踏み入れないように強く警告された。電話までいただいた。
しかし、出発まで24時間を切っており、もうチケットをキャンセルできない。レンタカー(ちょっと特別なもの)のキャンセルも10万円近くかかるという。
そこで、ローマで今晩泊まった後、パリ〜ニースに行く覚悟をした。第1ステージには間に合わないからそれ以降の取材だ。しかし、イネオスは欠場するというメールを今朝見た。
もしパリ〜ニースもキャンセルになったら、ベルギーのクラシックまで、どこか静かなところで過ごすことになる。

これだったら他のスケジュール組みをしたほうがよかったのだけど、フランスのレキップ紙のweb版には僕の写真が連日出ている。昨日もイタリアのレースに行けるかどうか、確認のメールがあったほどだ。
ベルギーの方からは、レムコ・エヴェネプールが出場するストラーデ・ビアンケは必ず行って欲しいというし、同国の有力紙ニューズブラッドからはウァウト・ヴァンアールトの撮影をホテルで夜7時からやってくれという依頼もあった。
だから行かないわけにはいかなかった。
イタリアやイギリスの雑誌だって写真を必要としている。
正直言って、先行きを心配している。
だけど自分を必要としている人が日本だけではなく、自転車大国でもたくさんいるのだから、今回の決断を後悔していない。